在庫持たず「いつでも買える」から始まった木材価格高騰

※新建ハウジング記事より抜粋

工務店は木材製品の在庫をしっかり持つべきなのか。
今回、木材製品価格高騰と入手難に振り回された工務店は、契約済みの住宅が建てられず真っ青となった。
しかしながら、大方の工務店、とくに都心部で事業を行う工務店にとってはいまさら不可能なことだ。
【木材ライター向井千勝】

「構造材・羽柄材、構造用合板など主要な木材製品はプレカット工場が加工済みの材料を用意し、石膏ボードや断熱材、各種副資材、さらに建材・住設も流通事業者が現場納品してくれる。
以前は林場で時間をかけ未乾燥構造材、羽柄材を乾かしてから住宅に使うことが当たり前だったが、精度の高いKD材を原材料とした機械プレカットが普及し加工部材を邸別で現場直送してくれ、胴縁、根太工事がなくなるだけでなく、材料を乾燥させるための林場、手刻みする加工場も不要になり、林場や加工場跡地は不動産有効活用の対象に変わった。
あらためて都内の工務店に木材在庫を持てといっても無理。置いておく場所もない」(西東京市の工務店)と語る。

受注減と在庫増

今回の木材急騰原因の一つは膨大な仮需の発生にあり、その背景には工務店も木材小売店も問屋も在庫を持たなくなったことが大きく影響している。
突然(本当は突然ではないのだが)、輸入木材製品が入手しづらくなった工務店は大慌てで複数の取引先小売店に木材の確保を要請し、やはり在庫を持たない木材小売店も複数の木材問屋に引き合いを出し、木材問屋も複数の口座のある木材輸入商社に調達を要請した結果、工務店が実際に必要とした数量(実需)のおそらく数倍が海外の木材産地に伝わった。

この間、抜け目のない小売店、問屋は先高確実とみて強烈な買い増しに入り、輸入木材製品価格をさらに刺激、短期高騰を招いた。

為替動向、産地動向などの影響を受けない国産材は本来、製品価格が2倍になるほどの市況変動因子などなかったが、国産材製材工場にも、輸入木材製品の代替需要が急増し価格に火が付いた。
さらに国産材市況先高を織り込んだ木材流通関係が大量の受注を入れるとともに加速度的に買い値を上げていった。

今も新聞、雑誌、TVなどで、木材製品調達が困難なこと、価格も倍以上になっているといった話が取り上げられびっくりすることがある。
現実は激変している。
輸入製品は大方の見込みを見事に裏切る大量かつ集中入荷となり、各地の港頭在庫を満杯にさせている。
国産材大型製材工場は受注減で工場内在庫が増え始め、商品回転を優先する販売に軸足を移さざるを得なくなっている。

ウッドショックの終焉

ウッドショックと称される木材価格の高騰は終焉した。
ただ、この間、明らかになったことは工務店側の「必要な数量をいつでも買うことができる」という決め付けがもろくも崩れ去ったことだ。

輸入木材製品需給が一気に緩和した結果、これまでの値上げ一辺倒の売り姿勢が消えうせ、いかに在庫を軽くするか、いかに在庫損を最小限で食い止めるかが目下の焦点となっている。
ただ、新規の輸入木材製品成約は大幅に減少しており、先行きの入荷減が確実な情勢だ。
木材製品需給は予測不能なまま今後も目まぐるしく変化してくるであろうことは頭に入れておく必要がある。

輸入製品市況や需給を見るうえで最も重要な指標は港頭在庫動向だ。
首都圏に供給される輸入木材製品の多くは東京港に荷揚げされ、流通事業者の手でプレカット工場など各地の需要家に出荷される。
その入荷拠点となるのが東京15号地だ。コンテナ船で輸入された製品も多くが15号地に集結し保管される。荷捌き・保管用地26万㎡、世界有数の木材製品受け入れ地だ。
この東京15号地で歴史的な在庫数量積み増しが起きている。

2022年8月末在庫はついに20万㎥を突破、前月末比6.7%増の20万9442㎥となった、特にロシア・中国ほかの在庫は今年最高の9万3809㎥まで増加した。
15号地の適正在庫水準は12万㎥といわれ、輸入木材製品価格急騰が始まった2021年前半は当該在庫が7万㎥まで減り込み価格高騰に火をつけた。
しかしながら2021年後半から在庫積み増しが顕著となり、2022年8月末には2021年1月比で2.9倍となった。

まさに値はモノを呼ぶという展開となった。
今回の入荷増、在庫増では大手輸入元だけでなく、普段直輸入など行わない流通事業者もスポットで輸入参戦し、取引履歴がなくても先払い現金を打てば誰にでも売ってくれる中国などは千載一遇の商機到来とばかりに日本への売り込みを図った。
中国産合板、LVLは港頭だけでなく流通事業者倉庫にもうず高く積まれた。

輸入木材製品に限らず商品需給は不確定要因を目の前にすると往々にしてこうした動きをする。
今回の場合、新型コロナ禍に伴い世界的に木材製品供給が不安定になったことに加え、ロシアによるウクライナ侵攻とロシアへの経済制裁が重なり、先行き品不足が起きるであろうと予想して多くの木材流通事業者が買いを増やした結果でもあるが、少数の事業者がひそかに動いたのではなく、大方の関係者がそのように動き記録的な大量入荷となった。

2022年1~7月時点の主要輸入製品の全国入荷量は欧州産製材が160万㎥(前年同期比32%増)、欧州産集成材が51万㎥(同20%増)、ロシア産製材が56万㎥(同32%増)、合板が123万㎥(同16%増)。カナダ産製材のみが同18%減の60万㎥にとどまった。

 

高騰する輸入コストと在庫増問題

問題はこれらの入荷玉の輸入コストが大幅に上昇している点だ。
輸入製材の2022年7月平均単価(㎥当たり、財務省貿易統計データから算出)は8万3205円(前年同月比43%増)、このうちカナダ産11万4711円(同40%増)、欧州産7万5798円(同77%増)、ロシア産7万2466円(同44%増)。また、欧州産集成材は12万2826円(同129%増)にもなる。
現在入荷している木材製品のおそらく大半の輸入コストが最高値となっている。

このため、需給が緩和したからといって価格を引き下げる余地はほとんどない。
ドル建てやユーロ建ての主要産地日本向け価格は最高値から徐々に下がりつつあるが、一方で急激な円安ドル高進行があり、今も新規輸入材コストは最高値に張り付いている。

大量入荷だけでなく出荷の落ち込みでも在庫積み増しとなる。
輸入コストが高値に張り付き価格弾力性を失い市場の買い気を鈍らせた港頭出荷が減少した結果でもある。
流通関係者は需給緩和に伴う地合いの軟化は重々理解しているが、かといって売り急ぐことができない。

それでも在庫損が出ないうちに在庫を軽くする必要があるため、じりじりと値を下げ始めている。
いつまで踏ん張りがきくかは今後の対日輸出価格と為替動向次第であろう。
1㌦140円を超える強烈な円安到来で期近に新規輸入コストが大幅に下がることは考えにくいが、一方で高値在庫を長期間持ち続けることができるとも思えない。
円高に反転したら終わりだ。

東京15号地の上屋保管料は1カ月(3期)で㎥1000円弱かかる。
首都圏の他港荷役会社と比べ割安ではあるが、例えば1000㎥の在庫を1カ月間保管した場合100万円の保管料がかかる。
在庫期間が延びるほど保管料負担は増していく。
荷主にとり大きな負担である。
実際に東京15号地在庫の入荷日を見ると2~3カ月前はざらで、昨年秋以降に入荷したものもあり、その保管料負担で予定収益など吹っ飛んでしまうだろう。

輸入元は少しでも保管料が割安な関東圏の物流事業会社倉庫に在庫を移管させるケースが相次いでいる。
関東圏で最大級といわれる物流会社倉庫を視察したが、ここも輸入木材製品在庫で満杯になっていた。こうした在庫増問題は首都圏に限ったことではなく、全国の港湾で起きている。

木材市況の乱高下
工務店はどう動くべきか

輸入製品在庫の急増で日本側は新規輸入が極めて困難になっており、今後の輸入量は激減してくる。
さすがに入荷減を見越して逆張りできる輸入元は少ないであろう。
既に欧州産製材の第3四半期契約は通常の50%以下になったといわれ、間もなく開始される第4四半期交渉も低調な成約にとどまりそうだ。
欧州産製材だけでなく、ロシア産、カナダ産、各種集成材・合板・LVLなども新規の買い付けは極めて低調だ。入荷しても置き場がない状況が改善できなければ当然だ。

日本側の買い気が後退したことで海外主産地の対日輸出価格も反転局面に入っている。
中国産の全層カラマツ構造用合板(12㍉厚3×6判、JAS、F☆☆☆☆)は今年の最高値から25%幅でドル建て対日輸出価格を引き下げてきたという。
羽柄材向けとなる中国産ポプラLVLも同様にドル建て輸出価格が大幅に下降している。
大量の高コスト手持ち在庫を抱えた流通事業者にとって怖いのは在庫損を確定しかねない産地のこうした動きだ。

値下がりしても日本側の中国産合板等への買いは慎重だ。
「中国産針葉樹構造用合板24㍉厚をスポット輸入したが、1コンテナの30%近くで寸法不足や剥離が出て大きなクレームとなった。
手持ち在庫も全く売れない」(問屋)と語る。工場の製造状況を直接確認せず価格だけで飛びついた結果だ。

こうした木材製品市況の乱高下に工務店はどう対処すべきか。
いまさら在庫を持つことはできない。
とはいえ、急変動する木材製品市況に機動力のある対応をするためには正しい情報を取得していく必要がある。

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