水害にあったら何をすべきか(前編)

※新建ハウジングより抜粋
※長岡技術科学大学大学院 木村悟隆

豪雨災害で被災した方々にお見舞い申し上げます。

0.あわてない

突然の水害で多くの皆様が、気が動転していると思います。
家に入ると、避難前とは全く異なる状況にどこから手を付けたらいいか呆然としつつも、直ぐに復旧に取りかからねば、早く元の生活を取り戻せねば、と焦ります。
が、一瞬立ち止まって、以下の点を確認してから作業を始めましょう。

1.さわってはいけない ―太陽電池パネルー

太陽光発電のパネルが流されて散乱していることがよくあります。
光が当たれば発電するので、触ると感電の恐れがあります。
所有者が分かる場合は連絡して撤去してもらって下さい。
御自身のものについても自分では触らず、販売業者や施工業者に撤去を依頼して下さい。

【参考】太陽光発電設備が水害によって被害を受けた場合の対処について/一般社団法人 太陽光発電協会

2. マスクと安全靴・安全インソール(中敷)の着用を

泥や砂が乾いてほこりっぽくなります。
その中には、流れ着いた有機物やカビといった「有機粉塵」も含まれます。
平時にもありますが、水害直後の被災地域の空気中にはその量が一時的に増えます。
吸い込むと、アレルギーや喘息をお持ちの方は症状が増悪する可能性があります。
また、健常な方でも何となく喉の調子が悪くなったりすることがあります。
被災地域で生活する場合は、マスクの常用を勧めます。

被災家屋に入る場合は、部材がカビていることがあるので必ずマスクをして下さい。
アレルギーや喘息をお持ちの方は、可能であれば信頼できる親族や知り合いの方に家屋内の片付けをお願いした方がよいでしょう。

釘が飛び出していたりガラスや陶器の破片が散乱していることがあります。
踏み抜かないように、できるだけ安全靴を履いて下さい。
安全靴の代わりに、普通の靴に安全インソールを敷いても踏み抜き防止になります。

万一踏み抜いた場合は、直ちに病院に行き、消毒と破傷風の予防接種を受けて下さい。

【参考】転んで錆びた釘を刺してしまいました。すぐに抜けたのですが、そのまま消毒しておけばいいでしょうか/千葉県ホームページ

3.あわてて電気を使おうとしない

コンセントボックスは配電盤が水を含んだままだとショートして感電や火災の恐れがあります。
専門業者に漏電していないか先ず確認してもらって下さい。
ブレーカーが入ったまま避難した場合は、帰宅時に感電しないようゴム手袋をしてからブレーカーを切って下さい。床下浸水でも、床下に床暖房や太陽電池関連の設備がある場合には同様の注意が必要です。

エアコンも電源を入れないで下さい(室外機は洗浄・乾燥で復旧する場合が多いが、土砂や泥が入ったまま通電するとショートして基盤が壊れてしまいます)。

【参考】災害時に気をつけること/関西電気保安協会

2015年関東・東北豪雨では、東京電力が「一度水に浸かった電化製品やコンセントは漏電による火災や感電のおそれがあるため、弊社が内線設備等の安全性を一軒ずつ確認してから送電を再開しました」とありますが、場所によっては突然の通電があるかもしれないので注意が必要です。
http://www.tepco.co.jp/ep/echo/goiken/1510.html

4. 写真を撮る

片付けに入る前に、まず被災状況の写真を撮りましょう。
罹災証明や保険の査定、税金の控除等で、何がどのように被災したのか確かな証拠になります。
スマートフォンやガラケーのカメラで結構です。
これらをお持ちで無い場合は、使い捨てカメラが今も売っているので購入して下さい。
フラッシュ付きの高感度タイプを買って下さい。

 家屋の外側を少なくとも3方向から、また、室内の被災状況も、まずは被災したそのままの様子を撮っておきましょう。
床上浸水の場合は、床上何cmか、ものさしや巻き尺などを当てて、高さを一緒に記録しておくことを勧めます。
家財が折り重なっていて、何が被災したか見えない場合は、起こした後で写真を撮っておきましょう。

5.領収書・レシートは何でも取っておく

マスクや安全靴に始まり、応急処置に要した費用や、工務店などの業者の修理に支払った領収書等の復旧に要した費用に関するものは何でも取っておきましょう。
税金の控除で必要になる場合があります。
また、大きな災害では、後から遡って公的支援制度が作られる場合があります。
その時に、領収書やレシートは費用の証明になります。

 住民票を被災地に移していない場合は、電気・水道・電話といった公共料金の領収書が居住の証明として必要になることがあります。
捨てずにとっておきましょう。
領収書を失っても、再発行できる場合が多いので、必要になったら請求元に問い合わせて下さい。

6.保険会社への連絡(※保険に加入している場合)

被災したことを連絡しておきましょう。
住宅のほかに、車が被災した場合は、車両保険に入っている場合なら自動車保険の会社にも連絡を忘れずに入れてください(大きな災害の場合は、連絡を待たずに調査員が調査に来ることが多いですが)。

 加入している保険会社が分からない場合は、銀行の通帳を見れば「お取引内容」に書いてあることがありますし、一般社団法人日本損害保険協会「自然災害等損保契約照会センター」に問い合わせれば、教えてくれる場合もあります。
ただし、原則として、被災された方(本人)、被災された方(本人)の親族(配偶者・親・子・兄弟姉妹)からの照会が原則で、災害救助法が適用されていない地域または金融庁国民保護計画に基づく対応要請のない地域で発生した災害の場合は、当センターは利用できないので注意してください(フリーダイヤル 0120-501331)。

7.水損家財・電気製品の運び出し

被災状況の写真を撮りましたか?
写真を撮ったことを確認してから運び出しましょう。

一人ではどんなに体力があっても持ちません。
家族や親族、知り合いの十分な手助けが得られない場合は、ボランティアセンターにボランティアを依頼しましょう。
無料ですが、通りすがりの見慣れぬ人が「ボランティアしましょう」といきなり飛び込んで来る場合は要注意です。
詐欺業者や泥棒の可能性があります)。

家財を運ぶのは、乾いていれば軍手でもよいですが、釘が飛び出していた際に手を傷つけないよう皮手袋をしたほうがよいです。

吸水した畳は捨てて下さい。
非常に重くなっているので、腰を痛めぬよう何人かで一緒に作業して下さい。

合板やMDFでできた家具類は一旦吸水すると変形して使えません。
廃棄して下さい。
無垢材であれば、乾燥させて消毒すれば使える場合が多いです。

システムキッチンは一見大丈夫な様でも、引き出しが変形して動かなくなることがほとんどです。
家を修理する際に買い替えて下さい(無垢材で作られたものなら消毒して乾燥すれば使えます)。

冷蔵庫、炊飯器といった電気製品も廃棄しますが、家電リサイクル法の対象になっている製品の廃棄は、一般の災害ゴミとして取り扱うか、平時のリサイクル法の取り扱いになるか、各自治体で異なる可能性があるので事前に確認が必要です。

パソコンは、電源が入らなくてもHDDやSSDのデータは残っている可能性が高いです。
災害時には無料や安価に修理を行うメーカーもあるので、お使いの機種を確認してメーカーに問い合わせて下さい。

 また、エアコンやエコキュートの室外機は、きれいな水で洗浄し乾燥すればかなりの割合で動作します。
メーカーでは通常こうした修理は行いませんが、街の電気屋さんだと大抵やってくれます。
動作してもメーカーの保証外になりますが、当座の出費は少なくて済みます。
水災の家財保険に加入している場合は補償されますので、そのお金で買い替えることを考えてもよいでしょう。

8.思い出の写真は水に濡れても捨てないで!

写真については、さまざまな専門的な復旧のノウハウがあります。
水で濡れたからといって、諦めないで下さい。
東日本大震災では各地のボランティアセンターなどで、被災した写真の修復作業やそのデジタル化作業が行われました。
今回、そうしたボランティア活動が行われるかは不明ですが、ボランティアセンターができたら対応してもらえるか聞いてみてもよいでしょう。
個人で取り組むのなら、FUJIFILMのサイトなどが参考になります。
カビないうちに早めの処置が必要です。

【参考】被害を受けた写真・アルバムに関する対処法

9.床下の排水・泥出し

水損した家財を屋外に運び出したら、あるいはそれをやりながら、平行して床下の排水を行って下さい。
最近の住宅はコンクリートでできたベタ基礎の上に基礎パッキングを置いてその上に家屋が建築されているものが多いです。
床下の低い浸水では基礎は浸水しないで済みますが、床上浸水あるいは床下でもかなり水位が高い場合はパッキングと家屋の隙間から水が入ります。
一旦入るとプールの様になり水は抜けません。
水中ポンプで水を抜き取ります。
「水中汚水ポンプ」等の名称で販売されています。
床の何処かに点検口があるので、そこからポンプで水を吸い取ります。
吸い取ったらきれいな水を入れて洗い、また吸い取るのを何度か繰り返します。
点検口が十分無い場合は、フローリングを一部四角く切って新たに点検口を増設することも考えます。
住宅を建築した工務店に相談して下さい。

 昔からある在来木造では、畳を外した後の床板はバールで釘を抜けば外せます。
外す前に番号を振って元の位置が分かる様にしておくとよいです。
無垢材であれば、水洗いして消毒して十分に乾燥すれば再利用できます。
床下に入った泥はできるだけ取り除いて下さい。

10.床上の掃除

 タオルで汚れを拭き取って下さい。使い古しでよいので、たくさん用意しておくといいでしょう。

11.水損した石膏ボード壁と吸水した断熱材の除去(※水害の保険に加入していない場合。加入していれば一連の修理の際に業者が行うはずです)

最近の住宅では壁に石膏ボードが使われていますが、一旦濡れると容易には乾きません。
壁の内部にはグラスウール断熱材が使われていることが多いですが濡れたら乾きません。
石膏ボードは濡れるとカビ易く、内部のグラスウールから水分が供給されてさらにカビていきます。
内部のグラスウールが濡れた高さまで石膏ボードは切り取ります。
浸水深より少し上まで切り取ります。
グラスウールが濡れていない場合は、壁はそのままで大丈夫な場合もあります。
コンセントボックスを外して調べる方法もありますが、感電しないよう。ブレーカーは切って下さい。

石膏ボードは、産業廃棄物として処理する必要があります。
土中に埋めると微生物が分解する際に毒性の強い硫化水素を発生するので、不法投棄は厳禁です。
自分の土地に埋めてもいけません。

 非接触で壁内部のグラスウールの濡れを知ることができる水分率計もありますが、数万円します(住宅のメンテにあたる工務店では、1台あればチェックに有用です)。

12.消毒

水害で消毒剤としてよく用いられるのは、消石灰、オスバン(塩化ベンザルコニウムの商品名)、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用漂白剤の主成分)、クレゾール(病院等で消毒に用いられる)、消毒用エタノール(エタノール76.9~81.4vol%)があります。
これらを使う時はマスク、ゴーグル、ゴム手袋を必ず着用して下さい。

消石灰はこれまで水害被災地で屋外や床下に多く撒かれてきましたが、土壌の殺菌効果の科学的証拠はありません。粉末を吸い込むと呼吸器疾患、手に触れたり目に入ると障害を引き起こす恐れがあります。
万一使う場合は、汚物の周辺等に限って散布して下さい。
屋外は紫外線によって自然に殺菌されると言われています。

オスバンは、石けんの一種で、規定の濃度に薄めて様々な用途に消毒剤として使えます。
濃度は規定以上に濃くしても効果は上がりません!
有機物があると効果が落ちるので、家屋の木部を消毒する場合は、先に汚れを拭き取って下さい。

次亜塩素酸ナトリウムは、食器の消毒に向いています。
所定の濃度に薄めてから使用して下さい。
家屋の木部にも使えますが、漂白作用もあるので白くなりがちです。
大事な家具や室内の見える柱などに用いる場合は、あらかじめ通常目に見えない場所で変色しないか確認して下さい。
吸い込むと、呼吸器疾患の恐れがあるので噴霧はしないで下さい。

消毒剤使用後の乾燥にも注意して下さい。
オスバンと次亜塩素酸ナトリウムはいずれも水溶液です。
消毒剤の効果は時間が経つと無くなります。
その時点で湿っていると新たにカビの原因となります。
これら消毒剤で消毒したら直ちに換気を十分に取り乾燥させて下さい。

 消毒用エタノールはそのまま使えます。
水で薄めると効果が無くなるので注意して下さい。
エタノールは可燃性なので、使用時は十分換気して下さい。
木部に広く使え、変色はしません。
汚れがあると効果が落ちるので、あらかじめ拭き取って下さい。
水と一緒に揮発するので木部は乾燥したままで保てます。
値段は高いので使える面積が事実上限られるのが欠点です。

13.床下の乾燥(約1カ月)

排水・洗浄や泥出しの終わった後は、十分に乾燥させて下さい。
床下に送風して屋外に排気することを勧めます。
「ダクトファン」があると、空気を直接床下に送り込めますが1台2万円ぐらいします。
無い場合には、扇風機の首を下向きにして換気口から空気を送り込みます。
家にいるときは窓を全部開けて換気して室内の湿度を下げるよう努めて下さい。
木部とベタ基礎のコンクリートの乾燥に1カ月は掛かります。

 乾燥中にカビが生じた場合は、そこだけ再度消毒剤で拭き取って下さい。
木材の水分率が15~20%まで下がるのが目安です。
水分率計があるとよりよいです。
安いものならネット通販などで500~1000円で売っています。

 とにもかくにも水害からの復旧は「乾燥第一」。
あわてずじっくり乾燥するまで待ちましょう。
次回で詳しく触れますが、待っているうちに、保険金額、公的支援制度で利用できる額が分かってくるでしょう。
生活は不便ですが、その間2階のある方は2階で、そうでない方やアレルギー・喘息などを持っている方は、仮住まいを考えて下さい。

次回(後半)は、支援制度と修理について紹介します。

水害にあったら何をすべきか チェックリスト

CONTACT

大洋工務店の家づくり、住まいに関するご相談・住宅商品に関するご質問等、お気軽にお問合わせください。