水害にあったら何をすべきか(後編)

※新建ハウジングより抜粋
※長岡技術科学大学大学院 木村悟隆

家屋の再建 じっくり乾燥してから修理を!

浸水被害を受けた個人邸の復旧作業(7月17日岡山県倉敷市・真備町にて)

 前・中編に続いて、最終回の後編では公的支援を活用した住まいの修理・再建について解説します。

16.家屋の修理・再建

最近の高気密高断熱住宅の場合ですが、過去の水害で天井までは浸水しない床上浸水で、修理に500万円かかったという話を聞いています。
罹災証明の「半壊」住宅の修理には、地震災害の同じ認定の家よりもお金がかかるといっても過言ではありません。

ただし、水災の保険は補償が手厚いです。
これから述べるように、水災の保険に加入しているか否かで、修理の道筋も大きく変わってくる可能性があります。

前提として、新しい畳を入れる際には十分注意してください。
水分をかなり含んでいるので、入れた後も換気を十分にしてください。
過去の災害で入れたばかりの畳がカビた事例がたくさんあります。
その全てが換気不足でした。

また、「前編」でも書きましたが、応急処置後、木材や基礎の乾燥には最低でも1カ月、できれば2カ月は乾燥してください。
早く直したい、お盆までに間に合わせたい、と思っている方が多いと思いますが、大変ですが修理はしばらく待ってください。

修理・再建の間の仮住まいが必要な方が多いと思います。
既に多くの自治体から仮設住宅が提供されると広報されています。
今回の災害では、半壊の方も入居できます。
民間賃貸の借り上げや公営住宅の無償提供という「みなし仮設住宅」が今のところほとんどですが、自治体によっては既に建設型仮設住宅の計画を公表しています。
仮設住宅に入居すると、応急修理制度は使えません。
ただし、喘息やアレルギーをお持ちの方は仮に2階が浸水していなくても発災しばらくは、被災エリアに留まると症状が増悪する可能性があるので、仮設住宅への入居をお勧めします。

■みなし仮設住宅

みなし仮設住宅は、東日本大震災以降に積極的に行われるようになった方法で、未だに自治体によって運用が随分違います。
行政がリストアップしてその中から選ぶ場合、ある条件内の物件を自分で探して行政が追認する場合など、さまざまなケースがあります。
仮住まいの契約をする前に、市町村にみなし仮設住宅として認められるかどうか確認してください。
既に自分で借りている場合は、みなし仮設として追認してもらえるかどうかを市町村に相談してください。

■修理の基本的な考え方
前置きが長くなりましたが、水災の保険・共済に加入している場合と、未加入の場合での修理の考え方についてまとめてみます。

1)水災の保険・共済に加入している場合
「再調達価格」特約(新価、実損払など、損保会社によって名称が異なる)を付けていれば、工務店の見積に対して支払われるので、仮に公的支援が無くても持ち出し無く住宅を修理することができます。
前にも書きましたが、応急処置の費用も含めて請求できます。
全ての損害を漏れなく見積に入れてもらいましょう。
もちろん、保険はあくまで「補償」ですので、実際の工事で「応急修理制度」を使うのも問題ありません。
保険ではカバーされない、家屋や家財以外の様々な損害があると思います。
使える制度は漏れなく上手く使って、生活再建を進めていきましょう。

2)水災の保険・共済に加入していない場合
半壊だとすると、公的支援で支給されるのは応急修理制度の58万4000円しかありません。
義援金は通常半壊以上であれば配分されますが、過去の事例から考えても、半壊では額が少ないと思われます。
仮に440万円を自己資金とすると、融資は受けられても、返済まで考えると容易ではありません。
高齢者の場合は、お一人では融資が受けられない場合も多いかと思います。

全壊でも応急修理制度は使えますが、支援金と合わせて260万円弱。
残りは融資も含めて自己資金で賄わないといけません。
既に新築の住宅ローンを組んでいて、修理のローンとの二重ローンになり返済が難しい場合には、先述したように被災前の住宅ローンの減免が可能です。

■修理における注意点
修理をどこまでするか、苦渋の選択ですが考えざるをえないかも知れません。
「中編」で石膏ボードの壁と内部の断熱材の吸水のことを述べました。
断熱材の吸水の高さは単純には浸水深では決まりません。
浸水時間が短い場合にはそれほど吸い上げていない場合もあります。
断熱材の濡れを確認して、濡れていなければ切り取らないで済ませられます。

2階まで浸水したが、2階まで修理するお金が無い場合は、2階は応急処置に留めて、1階のみ生活できるように直すのも1つの選択です。
また、応急修理制度は金額が限られているので、お風呂やトイレ、窓といった最低限必要な修理に使い、残った内装などは、日曜大工の心得があれば自分で行うことも考えましょう。
壁の断熱材を入れ替えたり、石膏ボードで壁を貼ることも可能でしょう。

古い家で断熱材が入っておらず、壁に石膏ボードも使っていない家では修理代はむしろ安くなると思います。
床板は前述の様に再利用できます。
畳は新しいのを入れます。

土壁は一旦、土を落として小舞を乾燥させるのがよいようです。
ただし、落とした後、再度土壁で修復するのは非常にお金が掛かります。
消毒でカビを落として済ませたケースも過去の災害ではありました。
建物にとって長期的によいかどうか分かりませんが、資金が無ければあり得る選択です。
消毒用エタノールは高価ですが、水分と一緒に蒸発して残らないので土壁の消毒には使い易かったという過去の災害の話も聞きます。

以上、保険加入の有無で修理の道筋が変わる可能性を指摘しました。
もちろん、保険未加入でも十分な自己資金があれば全て修理できますが、例外だと思います。

【参考】
「浸水被害を受けた竹小舞下地土壁の扱いについて」/NPO法人 関西木造住文化研究会 http://karth.org/archives/1067
水に浸かった壁土を落として土壁を補修する方法はこちらを参照のこと。

■修理・自立再建が難しい場合
修理する資金も自力再建も難しい方に対しては、復興公営住宅が新たに建設されたり、既存の公営住宅に入居することになろうかと思います。
過去の災害では発災半年後以内に市町村が最初の意向調査を行いました。
復興公営住宅への入居を希望される場合は、意向調査には必ず入居を希望する旨、回答してください。

修理や再建に際して、水害特有の難しいケースも想定されます。
水害後は、今後同様の災害を防ぐために、河道改修や堤防の嵩上げといった復旧工事がされることがよくあります。
過去の水害で家を修理した後に立ち退かざるを得なくなり、修理に要したお金が借金として残ったケースもあります。
今回水害を起こした河川に隣接する地域では、河川管理している国、県、市町村に対して、町内会、自治会単位で移転を伴う河川改修工事がされるか否か確認しておくとよいでしょう。
発災後数カ月で復旧・改修工事の概要は決まるはずです。
土砂災害でも同様に工事による立ち退きが生じる可能性があります。

また、個人で今後の水害リスクを考えて解体して移転する場合も出てくるでしょう。
罹災証明が全壊であれば、解体費用は支援金で賄うことができます。
しかし、新たな土地と建物は自分で用意する必要があります。
リスクが高い土地であることを行政が認めて地域全体で移転する場合には、それを補助する防災集団移転促進事業というものがあります。
この場合も新たな土地の土地代と家の建設費用が必要です。
いずれにせよ、将来のリスクと家計状況を踏まえた判断が必要になるでしょう。
土砂災害に関しては、浸水と比較しても致死性のリスクが高いことも考慮すべきでしょう。

 

 

以上、3回にわたって、水害にあったらどうするか、まとめてみました。
応急処置まで終わったら、次に大事なのは「じっくり乾燥」これに尽きます。
その間、支援制度をよく調べて、自分に当てはまるものを申請してください。
罹災証明の申請はその第一歩です。
乾燥で待っている1~2カ月間のうちに、保険に入っていれば保険金、支援法の支援金、義援金の第一次配分、応急修理制度などの公的支援で使えるお金の合計が分かります。
家屋の修理や再建の展望が少しずつ見えてくるでしょう。
その間に、後出しで特別な支援制度ができればそれも修理・再建に利用できます。
大災害ではこうした後出しの制度制定がしばしばあります。

市町村のお知らせ文書は必ずチェックし、またホームページは定期的に確認して最新の情報を入手することをお勧めします。
高齢者等では、情報を入手できなかったり、目の前にある情報が理解できないことが多々あります。
ただでさえ災害時の用語は平時聞き慣れないものばかりで、若い方でも混乱します。理解できたら、周りにいる理解の難しい方に伝えてください。
公的支援制度は理解できる人もそうでない人も、全員が利用して初めて地域が復旧復興できます。
被災された方全員が前向きにすまいの復旧復興に歩んでいけることを切望して一連の記事の締めと致します。

□水害後の対応表

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